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ひとくちに「クリエイター」といっても、描き出すクリエイションは色とりどり。その背景には、バッググラウンドや譲れないこだわり、そして個性がある。 私たちが愛する「あのイラスト」は、いったいどのような思考回路をたどり、どのような技術によって生み出されているのだろうか。 クリエイターたちが歩んできた人生に焦点を当て、自分好みの色でクリエイター人生を彩ってきたヒストリーを明らかにしていく連載「人生のふであと」。 今回のゲストは、イラストレーターのmamepさんです。 mamepさんはイラストレーターと会社員、二足のわらじを履いて活動しています。彼女がいつも心に置いているのは、絵に対する強くシンプルな思いでした。 「絵を嫌いになったことは一度もありません」と語るmamepさんの“ふであと”をたどっていきます。 |
絵で生きていくつもりはなかった、けれど
──── mamepさんが絵を描き始めたきっかけについて教えてください。
きっかけは保育園のお絵かきでした。その時間が楽しくて、「自分は絵が大好きなんだ」と子ども心に気づいてから、今までずっと描き続けています。
イラストレーターになるまでは、他人にどう見られるかを考えることなく、ただ好きなものを好きなように描いていました。キャラクターの絵を真似たり、オリジナルのキャラクターを描いたりするのが好きでしたね。
学生時代は、自分が描いた絵を友人たちに見てもらっていました。イラスト仲間も何人かいたので、お互いに見せ合いながら盛り上がって。周りからはマニアックな趣味に見えたかもしれませんが、自分から生み出された表現を褒めてもらえるのは、とても嬉しいことでした。
──── mamepさんの現在の作風は「身近にいそうな男の子」ですが、この頃から人物を描いていたのでしょうか。
イラストで人物を描くスタンスは、当時からずっと変わっていません。私は瞳を描くのが苦手で、それを克服するにはどうすればいいかを模索していくうちに、現在の作風にたどり着きました。
具体的には顔の描写を最低限に、他の部分を丁寧に描くことです。瞳の強さや顔の派手さではなく、全体で雰囲気を作る工夫を重ねて、私だけの「総合してかっこいい」作風が生まれました。
その雰囲気をつくるために、服の描写には力を入れています。最初はなかなか上手にできず、描きたいテイストの服を実際に着て、自撮りした写真を見本にしていました。
そうやって素材や形、シワなどを表現する練習をしたおかげで、現在はどのようなテイストの服も描けるようになっています。

──── いまはその作風を活かして、イラストレーターとして活躍されています。お仕事として描き始めたきっかけは何でしたか?
2020年の春、𝕏のダイレクトメッセージで、仕事として絵を描くご依頼をいただいたことです。内容はYouTubeの「歌ってみた動画」に使用するMVのイラスト制作。自分のためではなく、人のために描いた初めての経験でした。
このタイミングで、それまで趣味として楽しんでいた絵を「職業」と意識するようになりました。私がイラストレーターとしての覚悟を持ったターニングポイントです。
創作活動を支えるベストな時間配分
──── 現在はイラストレーターと、事務のお仕事のダブルワークだとお聞きしました。専業を志す人も少なくありませんが、なぜ現在のスタイルにされているのでしょうか。
そもそも、絵を描くことを仕事にしようとは考えていなかったんです。「趣味で続けられたらいいな」くらいにしか考えていなかったので、部活動も絵には関係がない弓道部や合唱部でした。大学でも、絵の勉強はしていません。
とはいえ、就職活動では「絵を描きながら続けられる仕事」を仕事選びの前提にしていました。絵を描くことは私の人生にとってかけがえのないピースなので、仕事を理由にして描けない日常を送るのは嫌だったんです。
時間にある程度の余裕が持てたり、ハードワークを前提としない職業に就くことは決めていましたね。
──── 絵を描くことを仕事にする予定ではなかったんですね。mamepさんはそこから4年間、ダブルワークを続けて来られました。大変だったことや、慣れるまで苦労したことはありましたか?
最初は自分のキャパシティが把握できず、お仕事を引き受け過ぎてしまうことがありました。そんなときは睡眠時間を削ったり、有給休暇を取ったりして間に合わせていましたね。
いまは仕事量の「楽しい」と「大変」の境目が分かっているので、自分で調整できるようになりました。納期が厳しいときはお断りもさせていただきつつ、楽しめる範囲で活動しています。自分が絵を楽しめていないと、その気持ちが画面にもあらわれてしまいますから。
──── いずれはイラストレーターとして独立する予定なのでしょうか。
今のところ、独立の予定はありません。イラストレーター一本ではなく、他にも仕事があることの経済的な安定感は、心の余裕をつくってくれますから。
イラストレーターとして生きていくのは、言葉にするより大変なことですし、絵はもともと自分にとって楽しいものでした。「好きを仕事に」と聞くと、とても素晴らしいことのように思えますが、現実は苦しい瞬間も多々あります。少なくとも現在は今のペースが自分に合っていると思います。
──── 兼業で活動しているクリエイターのなかには「最終的には独立したい」と思う方がたくさんいます。でもmamepさんは、あえて今のままでいようと考えているんですね。
独立してイラストレーターだけでやっていこうとするあまり、絵を嫌いになるのだけは避けたいんです。描くことを楽しみ続けるという意味でも、私の場合はこのまま兼業でいるのが一番だと思っています。
私は本業、イラストレーター、プライベートと3つの時間をしっかり分けて考えています。特にライフスタイルなどを意識したわけではありませんが、自然とこのトライアングルにたどり着いていました。
──── 絵を描きながら続けられるお仕事を選んだということですが、それでも本業が占める割合は大きいかと思います。その時間をイラストに充てたくなることはありませんか?
働く時間を、絵に全振りしたいとは思いません。私は基本的に、時間的制約があるほうが筆が進むタイプなんです。それに先程もお話ししたとおり、イラストの仕事量を自分のキャパシティの範囲に調整していますから。
もちろんダブルワークは多忙ですので、疲れたな、しんどいなと思うこともありますよ。それでも、3つの時間を行ったり来たりしていると、本当に落ち着くんです。描くことを仕事としながら楽しんでいられる、私にとってのベストバランスなんだと思います。

描き出す絵には、人間性が滲み出る
──── mamepさんとR11Rの出会いについて聞かせてください。
2021年に声を掛けていただきました。イラストレーターとしての仕事が安定してきて、SNSのフォロワーも7,000人くらいになった頃です。
去年は、R11Rと池袋PARCOの共同開催企画「Emotions」でも私のイラストを展示していただきました。それをきっかけにフォロワーが増えたり、絵のお仕事をいただいたりと、目の前の景色がどんどん開けていきましたね。
──── イラストレーターとして世界を広げていくなかで、mamepさんが核としていることや、憧れている人はいますか?
イラストレーターの中村佑介さんに憧れています。高校時代に初めて中村さんの作品を拝見したときは、「こんなにすごい絵、見たことがない!」と大きな衝撃を受けました。
美しさや心地良さを超えた没入感といいますか、ぐっと引き込まれるような感じがしたんです。その日以来、私も、見る人に没入してもらえる絵を描きたいと思ってきました。
以前、幸運なことに、中村さんが絵を添削してくださったことがあったんですね。添削は辛口でしたが、それよりも「今まで何をしてきたのか」「どんな仕事をしているのか」と、私自身のことを訊かれるほうが多くて。
絵だけではなく私の内面にまで目を向けていただいたことに驚きましたし、絵には自分の生き様が現れるのだとも理解できた、素敵な経験になりました。
中村さんがおっしゃった「mamepさんの作風は他にないものだから、自信を持って大切にしてほしい」という言葉は、私の宝物です。これからもしっかりと、自分のスタイルを貫こうと思っています。
──── ここまでお話を伺って、どんなときも前を見つめて歩いてきたイラストレーターという印象を受けました。mamepさんにも、スランプを感じる瞬間はあるのでしょうか。
そう言っていただけて嬉しいですが、スランプで何も描けなくなることもありますよ。そんなときは、イラスト仲間にアドバイスをお願いしたり、褒めてもらったりして乗り切ってきました。1人ではなかったからこそ、ここまでやって来られたと思っています。
スランプの時期は苦しいものですが、だからといって絵を嫌いになったことは一度もありません。自分の中で「好きでいることをやめない」というのが、絵に対する決まりですから。
──── mamepさんはこれからも、イラストレーターとして歩き続けていくことと思います。今後、挑戦したいことやレベルアップしたいことはありますか?
イラスト以外の表現の幅をもっと増やしたいです。たとえば漫画を描けるようになりたいし、アニメーションにも挑戦したい。ファッションが好きなので、服を描いたりデザインしたりする仕事もしてみたいです。
また、私の作品は今のところ、「細くて若い男の子」というピンポイントな作風に限定されています。絵を描く技術もスピードも上がってきているので、今後はいろいろなタイプの人を描いていきたいです。
──── 最後に、イラストレーターを目指す方へ向けてメッセージをお願いします。
アドバイスをする立場ではないですが、自分の絵を好きでいることと、楽しんで描くことを大切にしていただきたいです。
絵を見ただけで「この方は自分の絵がすごく好きなんだ」と分かることがあります。私はそういう、気持ちがあふれるような絵を描く人が大好きです。好き、楽しいという思いが伝わる絵は、すごく良い絵だと思います。
私も「好き」の気持ちを軸にして、これからもイラストレーターとしての活動を続けていきます。
